剣と盾 第1話


眼下に広がるのは一面の青。
ああ、これはもうどうにもできないなと諦めるのがごく普通感情なのだが、この身に宿った呪いは、絶望しかないこの状況でも生きろと騒ぎ続ける。生残るための道があるのなまだいいが、誰がどう見ても絶望しかないこの状況で生き足掻こうとするのだから、我ながら滑稽だった。もし、一パーセントでも可能性があるならば、この醜い呪いに身を任せ、生還する可能性にかけていただろう

「オールハイブリタニア!オールハイルルルーシュ!!」

そう口にし男はゼロ専用艦の操縦席を道連れに自爆した。
ゼロに携わるものたちは皆その身分も経歴も、思想宗教あらゆるものを調べあげた者で固められていたはずなのに、暗殺者が紛れ込んでいたのだ。暗殺者?いや自爆テロか。悪逆皇帝に心酔し、その仇であるゼロを殺害する手段がテロ。ブリタニアからテロリストと呼ばれ続けていた革命家なのだから、これは因果応報なのかもしれない。
原型をとどめていない操縦席は、事前に爆薬が仕掛けられていた事を示しており、割れたガラスからは気圧差による暴風が艦内に吹き荒れた。反射的にパラシュートの確認をしたが、当然すべて空だった。あがき続ける呪いは、機能が回復するはずのない操縦席に固執し、もとの形さえもうわからない機器に触れ、抉れ失われた部品を探し、嵌め込もうとする。
はまったところで配線が切れ、電子制御も利かないがらくた過ぎないというのにだ。頭ではわかっているのに、この体はそれがりかいできないのだ。刻一刻と近づく海面。
呪いに抗うのもバカらしくなり、確定した死を前に醜く足掻く事こそ罰なのだと、この世界から争いを消し去るために人柱となった彼の最期の願い、最後の約束は果たされることはないのだという事実が頭をしめた。しらず、口から声が漏れる。これは、悲鳴ではない。笑い声だ。そもそも、何万という人々を消し去った大罪人に、そんな資格は無かったのだと狂ったように笑った。いや、この時本当に狂ったのかも知れない。 それが、僕の最期の記憶だった。

···最期の記憶のはずだった。



耳障りな警報が鳴り響き、僕はハッとなった。
けたたましく鳴るそれは自分の周囲から発せられた音で、あれだけ破壊された操縦席で警報という事は、まだ何か可能性あるのでは?と我に返ったが、次の瞬間にその考えは間違いだと気がついた。目の前にある計器は破損などしておらず、どれも新品同様の状態だったからだ。
それだけではなく、その場所は先程の航空機とは明らかに異なる作りで。
状況を把握できず辺りを慌てて見渡したが、どう考えてもそこはよく知っている場所、…間違いなくランスロットの操縦席だった。アルビオンではない。もっと古い。そう、初めて騎乗した最初のランスロットの操縦席だった。
警報は今もけたたましく鳴り響き、目の前のモニターにはエラーメツセージが大きく表示されていた。懐かしいその表示。機体にエラーが生じたときの訓練などでよくみたものだっった。これは走馬灯だろうか?脳がそう認識するより早く手が、体が動いた。ギアスによるものではなく、これは訓練による条件反射だ。
表示されたエラーメツセージ、反射的に確認した機体の状況。その場合どうすればランスロットを再び起動できるか、あるいは現状を打開できるのか。気がついたら条件をクリアし、エラー画面は消え、モニターは機能を回復していた。
ぜったいに回復不可能な現実から逃げ、最期の幻想の中で機体の回復を行ったわけだ。 ああ、なんて滑稽なのだ。
あまりにも情けない。
再び狂人の嘲笑が口をつく。
けたたまし警報に代わり、狂った笑い声が狭いコックピットに響いた。

「スザクくんどうしたの!?」

外部からの指示でコックピットが開き、そこには青ざめた顔のセシルがいた。

2話